45年前、28歳の時、あるきっかけから弦楽器のオークションに参加するため、ロンドンに渡った。
ホテルからオークションのオフィスに電話して、参加資格方法など問い合わせ、オークション本番2日前から下見をした。1台1台とカタログを見比べていった。きれいで光り輝いているストラド型のバイオリンはだいたい安価で、古くさく色の黒っぽいものが高価である。事前にハンマのオールド・イタリアンバイオリンとウィリアム・ヘンリーのユニバーサル・ディクショナリーで多少勉強してきたつもりであった。実際に多く楽器を目にして、これらを理解するのは難しいことであると覚悟した。
数ヶ月のロンドン及びヨーロッパの滞在の間、弓の毛替や修理の初歩を学んだ。イタリアやミッテンバルドの製作者、ロンドンの修理者と知り合いになることができた。少し後にHill出身のバイオリン職人や弓製作者からもレッスンを受ける幸運もあった。この間、フィリップス、サザビーズ、クリスティーズ等のオークションを見て回り、ディーラーを尋ね、わからない事などを聞き、少しずつ理解を深めた。
日本に帰って後、つたないながらも修理し、友人の協力もあり販売を始めた。その後毎年3回ロンドンに出張し、オークションやヨーロッパやアメリカのディーラーとの交流を深めた。特にクレモナの製作者とは親しくしていただいて、今日に至っている。
この間、いろいろな困難、リベート、楽器の真贋、正しい修理の方法、楽器の音が良いか悪いかの理由、会社の経営などなど、悩みながらも考え、判断し、解決をしてきた。
たまたま、私には蝶、山、鉱物など自然に対して興味があり、国語、算数など人文的、抽象的な事柄には興味を持てない性質です。どういうわけか、音楽は子供の頃から好きで、中学生の頃にはレコードを通して、ベートーヴェンの交響曲より始まって、次々とクラシック音楽にのめり込んでいきました。
この頃、同時にオーディオ雑誌を読みふけり、大型のステレオ装置にもあこがれていて、今でも大切な趣味であり楽しみです。室を含めて、大型のオーディオ装置から自分が満足できる音を引き出すことは、楽器を調整する困難さと重なります。次回より、今まで得た知識、経験や発見、それが仮説であっても、ひとつひとつ思いつくままに、記していきます。